活動報告

不妊治療と仕事の両立事例インタビュー 第二弾【オムロン株式会社 様】

不妊治療と仕事の両立事例インタビュー 第二弾
【オムロン株式会社 様】

現在、国内では政府による不妊治療と仕事の両立に向けた取り組みが急速に進んでおり、不妊治療と仕事の両立を行っている企業様への注目が高まりつつあります。

今後企業においては、従業員が安心して不妊治療と仕事を両立できる環境を構築していくことが重要となるでしょう。

そこで、既に支援を行っている企業様へ、先進的な取り組みやご経験についてインタビューさせていただき、ご紹介していきます。

お話を伺った方:オムロン株式会社グローバル人財総務本部 ダイバーシティ推進課 課長 上村様

【オムロン株式会社 様】不妊治療と仕事の両立支援制度

【不妊治療休職制度】

不妊治療を受ける場合に休業(通算365日以内・分割取得可)を認めるもの

【不妊治療への補助金】

社員あるいはその配偶者が治療を受けた場合、各市町村からの公的補助との合計金額が治療費を上回らない範囲で、通算20万円/2年以内まで補助するもの、複数回の利用が可能

インタビュー内容

オムロン上村様インタビュー

「絶えざるチャレンジ」という企業理念が育んだ制度づくり

-オムロンさんの不妊治療に関する取り組みは2005年から始められているとのことで、国内でみてもかなり早い段階ですよね?

はい、そうですね。当時、仕事と育児との両立支援や、従業員の働き甲斐につながる制度改善、組織風土改善の取組を人事部と労働組合の合同で議論し、そこで様々な制度の見直しを検討した一つが、不妊治療の支援制度でした。

-当時はまだ不妊治療というワードすら珍しかったと思うのですが、どうしてそこにスポットが当たったのでしょうか?

社会課題となっていた少子化に企業としてできることは何か、また従業員に対する支援は何かを協議した結果、不妊治療に対する支援制度が必要だという結論となりました。
その頃は、不妊治療を受けていることはプライベートな内容で、会社でオープンに話をする風土はありませんでした。しかしながら、今では不妊治療の話題も社内で普通に相談を受けます。また、不妊治療に対する理解のない反応を見聞きする機会は減りました。制度が出来てから15年が経ち、職場の理解や制度が認知され、定着してきたことを実感しています。

-こんなに早く不妊治療の制度をつくったのは、何かきっかけがあったのでしょうか?

オムロンの企業理念に“絶えざるチャレンジ”という私たちが大切にする価値観があるのですが、それは、新製品の開発など事業運営で発揮されるものだけではなく、人事・総務部門でも、従業員が思う存分能力を発揮できるために必要な制度をどんどん整え、職場風土を変化させていこうという考えに基づいて実行しています。社会のニーズをキャッチするという意味でも、早くから不妊治療や働く女性のワークライフバランス等の環境を整備していくことに積極的に取組む社風であったと感じています。

-素晴らしいですね。多くの方に聞いて欲しい話です。

私たちも誇りに思っています。制度を利用する従業員はもちろんのこと、制度を利用しない社員からも、『企業として不妊治療への取組みを応援する』という姿勢に共感と共鳴するとのメッセージが担当の私の部門にも届いていますので、嬉しく思っています。

不妊治療支援制度の申請をスムーズに行うために

-オムロンさんならではの不妊治療支援制度の工夫はありますか?

従業員の中には、治療を受けていることを知られたくないと思っている方もいます。その点に配慮し、治療の補助金申請に関しては、認可ルートに上司を通さなくてよいとしています。
治療を受けた領収書と申請書を本人が共済会に直接に送付すれば、共済会事務局から申請者の申請口座に補助金が入金されます。プライバシーに配慮した形で補助を受けられます。この点は、利用者視点にたった、私たち独自の工夫になっています。

仕事と不妊治療の両立を可能にした「時間休暇制度」

-不妊治療の休職制度も通算365日以内と驚きの日数ですが、こちらの申請については上司へ行うのでしょうか?

休職に関しては業務の調整など職場への影響もありますので、上司や人事部門への申請が必要になります。有給休暇を利用して治療に通えるということもあり、休職制度を利用する人は年間で数名です

-フレックスタイム制度など色々な働き方があるので、柔軟な対応ができている部分もあるのではないでしょうか?

そうですね。有給休暇も一日単位だけではなく、半日単位で取得することもできます。更に時間単位で有休取得できるように制度を変更してきました。例えば、就業時間中に2時間の休暇を取って治療を受けて業務に戻ることも可能になりました。また、フレックスタイム制度を使って、治療を受けてから出社するなどの時間調整もできるようになりました。

-当団体が全国で取ったアンケートによると、一番欲しい制度が時間休暇でしたので、利用される方も結構多いのではないでしょうか?

確かに時間休暇の利用率は上がっていますね。ただし、休暇申請理由の詳細までの報告を求めていない為、不妊治療のために時間休暇がどのくらい取得されたのかというところまでは把握できていません。

実は男性従業員からの申請の割合が多いという事実

-これまで、この補助金制度を利用された従業員の人数はどれくらいになりますか?

今までに延べ人数で、およそ1,000人が制度を利用しています。この制度は2年ごとに上限20万円までの複数回の申請が可能ですので、延べ人数での計算になります。制度がスタートして15年、このように利用者が増えている結果から、制度自体の理解が浸透していることを実感しています。

-その中で男性の従業員が申請している割合はどれくらいでしょうか?

当社は製造業で男性比率が8割、女性比率が2割の会社です。この従業員構成比率に付随する形で、男性からの申請が多くなっています。また、本人はもちろん、配偶者の治療も対象にしています。不妊治療の制度は女性従業員だけに向けた制度と思われがちですが、対象は、女性だけが必要としているものではありません。

-不妊治療は配偶者の協力が女性の生産性に影響するという研究結果もあるので、男性がそのような制度に前向きなのは良い傾向ですよね。女性の従業員の方から、「不妊治療と仕事の両立に困っていて…」というような相談はありますか?

相談事は不妊に関する内容に限らず、日々色々あります。例えば日常の相談の中で、「子供も欲しいけどキャリアアップも諦めたくない」との相談があります。その場合には、「不妊治療を受けて休職されてから、復職して活躍されている方もいますよ」との事例を伝えることで、自分もがんばりたいとの考えを持つ方もいらっしゃいました。これは、男性女性に関わらずの相談事です。
また、全国の各事業所には医療職が常駐しているので、治療そのものに関する相談は、医療職へ相談する従業員もいます。私たち、ダイバーシティ推進部が実施している女性活躍推進の研修の中で、不妊治療が話題になることもあり、制度の理解浸透とともに、キャリア形成との両立を両軸でキャリアビジョンとして語る方が増えてきました。

-私たちの地元秋田でも、普段から不妊治療の話題が出ているという社風の企業さんは、従業員の皆さんが生き生きと働いているという印象はありますね。最後になりますが、不妊治療に関する取組みの必要性を感じていない企業はまだまだ多いと思いますので、何かアドバイスがあれば教えて下さい。

アドバイスといったおこがましいことはありませんが、今、私が実感していることをお伝えしたいと思います。新しい取組みを始める際にはネガティブな意見も出てきますが、信念をもって決断し、実際にやってみることが大切だと学びました。時間がかかっても徐々に定着してきて、今は必要なことだったな、やって良かったなとの考えになってきています。これからも同じ姿勢で多様なメンバーがイキイキと働くための取組みを実行し続けていくことが重要だと考え、引き続き取り組んで参ります。


このたびは大変貴重なお話をありがとうございました。